Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
わたくしはむかし北廓を取巻いていた鉄漿溝より一層不潔に見える此溝も、寺島町がまだ田園であった頃には、水草の花に蜻蛉のとまっていたような清い小流であったのであろうと、老人にも似合わない感傷的な心持にならざるを得なかった。縁日の露店はこの通には出ていない。九州亭というネオンサインを高く輝している支那飯屋の前まで来ると、改正道路を走る自動車の灯が見え蓄音機の音が聞える。
植木鉢がなかなか重いので、改正道路の方へは行かず、九州亭の四ツ角から右手に曲ると、この通は右側にはラビラントの一部と二部、左側には三部の一区劃が伏在している最も繁華な最も狭い道で、呉服屋もあり、婦人用の洋服屋もあり、洋食屋もある。ポストも立っている。お雪が髪結の帰り夕立に遇って、わたくしの傘の下に駈込んだのは、たしかこのポストの前あたりであった。
わたくしの胸底には先刻お雪が半冗談らしく感情の一端をほのめかした時、わたくしの覚えた不安がまだ消え去らずにいるらしい……わたくしはお雪の履歴については殆ど知るところがない。どこやらで芸者をしていたと言っているが、長唄も清元も知らないらしいので、それも確かだとは思えない。