Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
」
「一体、どうしたの。顔を見れば別に何でもないんだけれど、来る人が来ないと、何だか妙にさびしいものよ。」
「でも、雪ちゃんは相変らずいそがしいんだろう。」
「暑い中は知れたものよ。いくらいそがしいたって。」
「今年はいつまでも、ほんとに暑いな。」と云った時お雪は「鳥渡しずかに。」と云いながらわたくしの額にとまった蚊を掌でおさえた。
家の内の蚊は前よりも一層多くなったようで、人を刺す其針も鋭く太くなったらしい。お雪は懐紙でわたくしの額と自分の手についた血をふき、「こら。こんな。」と云って其紙を見せて円める。
「この蚊がなくなれば年の暮だろう。」
「そう。去年お酉様の時分にはまだ居たかも知れない。」
「やっぱり反歩か。」ときいたが、時代の違っている事に気がついて、「この辺でも吉原の裏へ行くのか。」
「ええ。」と云いながらお雪はチリンチリンと鳴る鈴の音を聞きつけ、立って窓口へ出た。
「兼ちゃん。ここだよ。何ボヤボヤしているのさ。氷白玉二つ……それから、ついでに蚊遣香を買って来ておくれ。いい児だ。」
そのまま窓に坐って、通り過る素見客にからかわれたり、又此方からもからかったりしている。