Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
「……えっ。ち、違います」
「違うって」
「お人違いでございましょう」
卯木が肩をすくめると、
「なんの、その声からして、そっくりじゃねえか。どれ、顔を見せな」
木像蟹のような腕が、いきなり彼女の笠のふちをつかんだ。
「何をするッ」
良人の本能か。――妻の体へ手出しされた怒りは、つい、制止できなかった。
その元成の平手が、ぴしゃっと、木像蟹の頬ゲタで火打石のような音を発したとたんに、卯木も笠を押さえて、彼の毛むくじゃらな腕の下を、あやうく逃げ交わしていた。
「野郎っ」
ぶざまに泳いだ体を、奮然と、木像蟹は踏みとどめた。そして、肩の息で、
「やったな、治郎左衛門」
と、元成の本名をわめいた。
それだけで、元成はこの男の職業が何であるかをすぐ覚り、思わず水を浴けられたような硬直を姿にもって。
「な、なんじゃと」
「雨露次さん……、いやさ、そう呼んだら、すまして返辞するのだろうが、おめえはもと烏丸家に仕えていた服部治郎左衛門元成にちげえねえ。どうだ、おれの眼に狂いがあるか」
元成もいまは腹をすえた容子で、後ろへ廻った妻のおののきを励ますためにも、毅然と言い放った。
「もし、わしが治郎左衛門元成だったら、どういたすのか」