Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
そうした中で、縁につながる尼御前が、わが身ばかり、愛し子との対面を、よろこんでもおられぬと申すのじゃな。……なるほど」
尼は、ぺたりと、その白桔梗さながらの姿を折り伏せて。
「こ、小太郎さま。お助けくださいませ」
「助けよとは、たれを」
「足利の御舎弟さまを」
「それや鎌倉のおさしずにあること」
「そう仰っしゃらずに」
「昨夜のてんまつ。まだ逐一は上申の早馬もしていないが」
「さ、なお今なら、お胸ですむこと。お願いでござりまする。一生、御恩にきて忘れませぬ」
「小夜野。……では、恩にきるとお言いやるのか」
尼は、薄い肩にギクとしたふるえを見せた。まだ黒髪をおろさぬ以前の、俗の名をふいに呼ばれたからである。
すうと血をひいて、尼の面が驚きに冴えたので、義貞の方がむしろあわてた。尼自身は忘れている尼の乳房へ、心ない触れかたでもしたような罪をおぼえたのだった。
「いやなに草心尼。……つい、昔名が口に出てしもうたまでよ。はははは、気を悪うするな」
尼はやっと、納得していた。むりもないと、考えられて来たのである。わが姉が、むかしこの屋形に起居していた頃は、じぶんも常に姉の局へ遊びに来ていた。