Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme

Aozora Bunko

「はいっ」

すぐ轅の横へ寄って。

「お眼ざめでしたか」

「ム、だいぶ寝たわ。途中、何か変りはなかったか」

「大ありでした」

「あったろう。どんなことがあった」

「辻の篝屋にかかるたび、辻立ちの武者どもが、お車の内をさし覗いたり、私へも、さまざま、嫌がらせなど、吐ざきまいた」

「そんなことか」

「でも、あれ御覧ぜられませい。かしこの農家の辺りにも、桂川の岸べにも、あのように武者どもが、屯しておりまする」

「そりゃ、彼らの役目だ。この俊基も、彼らの眼には、極悪人とも見ゆるのであろうよ。……やんぬる哉、いまは尺歩も、彼らの眼の外へは出られまい」

「おっ、おあるじ。ざ、ざんねんでござりまする……」

菊王は肩をふるわせ、とつぜん、轅にしがみついて、泣きじゃくった。

ちらと、車上の人の眉にも、衝きあげられる感傷がかくせなかった。が、俊基はわざと磊落なことばを仮りて、戯れた。

「……そうれ。牛が歩みを止めてしもうたわ。菊王が何を泣くかと、牛めは振向きながら、尿しおるぞ」

「畜生っ」

菊王は、宙へ向って、空鞭を振りつつ歩いた。

館はもう見えている。館づくりというよりは、雅趣のある荘院風といった家構え。