Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
ここは領下の牧とは違う。あいても、領主の子息とただ畏怖している牧長の小娘でもない。
さらには、場所が場所だ。
もし知れたら。
あの皮肉な佐々木道誉が、どんな嘲笑をふくむだろうか。ひとにも茶話にするにちがいない。足利又太郎高氏ともある者がよ……と、彼の頬の黒子のいやらしさまで、気にかかる。
のみならず、かかる私行の些事といえ、彼に尻ッ尾をつかまれては、未来へかけて、禍いとならぬかぎりもない。それに忍び上洛の帰路という身でもあった。その憚りも超えている。
「……なんたる、おれか。なんたる過失を」
彼は頭をかかえたまま、いつまでも、梅の根がたに、うずくまっていた。かつての日、疎石禅師の喝棒に打ちひしがれた時のように。
地にはもう一人、藤夜叉の姿が、まだ自分が見つからぬような身なりで俯っ伏していた。といっても、男によって体に与えられた“うつつの喪失”は逆に彼女を一瞬のまにべつな女として生れかわらせていたともいえよう。その――苦痛を交じえて甘い欣しい歓喜の火ばなは、なお生理の余波を微かに体じゅうへのこしていた。だが徐々に、官能の弁が閉じられて、つねのわが身に返るかと意識された途中で、彼女は卒然と、すすり泣きをゆり起した。