Japanische Klassiker mit Furigana
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かがりびのおんな
篝火の女
吉川 英治
Lesen Sie 篝火の女 (かがりびのおんな) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 27.727 Zeichen · 56 Bildschirme
時々、帆の音に眼をさますと、退屈そうに、その眼が陸の影をさがしていた。
『娘さん、何処まで行くんだい』
側にいた三十がらみの――この船の客のうちではいちばん都会人らしい――手甲脚絆で身軽に装った町人が話しかけた。
『おらかい?』
娘はぶっきら棒に、
『古河へ帰えるのさ』
『じゃあ、江戸の庄で降りて、後は歩くのだな』
『ああ……』
と、鴉のような返辞をする。
そして袂から煎豆を出して、ぽりぽり食べ初めたが、時々、愛くるしい唇の間から、虫蝕いで黒くなった糸切歯が見え、あまり歯が丈夫でない質とみえて固い豆がよく噛めない。
『わしも、古河から上州の方へ出ようと思うのさ。ちょうど、道は一緒だな』
『おめえさんは、何屋だね』
『御城下の外郎屋の若い者さ』
『あ。薬売さんか』
『血どめだの、陣中膏だの、種々な薬種を持っちゃあ、方々の御陣所の御用を聞いてまわるのさ。生命がけの商売だよ』
『…………』
返辞がないと思ったら、田舎娘は、顔に笠を当てて、また居眠っていた、よく眠る娘である。つよい陽が、雲間から急に射してきた。誰か、大きな欠伸をする。
その春の陽が、真っ紅に沈むころ、奥州船は、右を見ても左を眺めても、芦ばかりな入江にはいっていた。