Japanische Klassiker mit Furigana
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おに
聴雨・蛍 織田作之助短篇集
織田 作之助
Lesen Sie 聴雨・蛍 織田作之助短篇集 (おに) von 織田 作之助 (おださくのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.483 Zeichen · 41 Bildschirme
新吉は左の腕を消毒すると、針を突き刺そうとした。ところが一昨日から続けざまにいろんな注射をして来たので、到る所の皮下に注射液の固い層が出来て、針が通らない。思い切って入れようとすると、針が折れそうに曲ってしまう。注射で痛めつけて来たその腕が、ふと不憫になるくらいだった。
新吉は左の腕は諦めて、右の腕をまくり上げた。右の腕には針の跡は殆どなかったが、その代り、使いにくい左手を使わねばならない。新吉はふと不安になったが、針が折れれば折れた時のことだと、不器用な手つきで針の先を当てた。そして顔を真赤にして唇を尖らせながら、ぐっと押し込んでいると、何か悲しくなった。こんなにまでして仕事をしなければならない自分が可哀想になった。しかし、今は仕事以外に何のたのしみがあろう。戦争中あれほど書きたかった小説が、今は思う存分書ける世の中になったと思えば、可哀想だといい乍ら、ほかの人より幸福かも知れない。よしんば、仕事の報酬が全部封鎖されるとしても、引き受けた仕事だけは約束を果さねばならないと、自虐めいた痛さを腕に感じながら、注射を終った。
書き上げたのは、夜の八時だった。