Japanische Klassiker mit Furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.224 Zeichen · 269 Bildschirme
これは誰も知っている通り有馬侯の屋舗跡で、現在蠣殻町にある水天宮は元この邸内にあったのである。一立斎広重の『東都名勝』の中赤羽根の図を見ると柳の生茂った淋しい赤羽根川の堤に沿うて大名屋敷の長屋が遠く立続いている。その屋根の上から水天宮へ寄進の幟が幾筋となく閃いている様が描かれている。この図中に見る海鼠壁の長屋と朱塗の御守殿門とは去年の春頃までは半ば崩れかかったままながらなお当時の面影を留めていたが、本年になって内部に立つ造兵廠の煉瓦造が取払われると共に、今は跡方もなくなってしまった。
その時分――今年の五月頃の事である。友人久米君から突然有馬の屋敷跡には名高い猫騒動の古塚が今だに残っているという事だから尋ねて見たらばと注意されて、私は慶応義塾の帰りがけ始めて久米君とこの閑地へ日和下駄を踏入れた。猫塚の噂は造兵廠が取払いになって閑地の中にはそろそろ通抜ける人たちの下駄の歯が縦横に小径をつけ始める頃から誰いうとなくいい伝えられ、既にその事は二、三の新聞紙にも記載されていたという事であった。
私たち二人は三田通に沿う外囲の溝の縁に立止って何処か這入りいい処を見付けようと思ったが、板塀には少しも破目がなく溝はまた広くてなかなか飛越せそうにも思われない。