Japanische Klassiker mit Furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.224 Zeichen · 269 Bildschirme
私は実際今日の東京市中にかくも幽邃なる森林が残されていようとは夢にも思い及ばなかった。柳椎樫杉椿なぞの大木に交って扇骨木八ツ手なぞの庭木さえ多年手入をせぬ処から今は全く野生の林同様七重八重にその枝と幹とを入れちがえている。時節は丁度初夏の五月の事とて、これらの樹木はいずれもその枝の撓むほど、重々しく青葉に蔽われている上に、気味の悪い名の知れぬ寄生木が大樹の瘤や幹の股から髪の毛のような長い葉を垂らしていた。遠い電車の響やまた近く崖下で釣する人の立騒ぐ声にも恐れず勢よく囀る小鳥の声が鋭く梢から梢に反響する。私たち二人は雑草の露に袴の裾を潤しながら、この森蔭の小暗い片隅から青葉の枝と幹との間を透して、彼方遥かに広々した閑地の周囲の処々に残っている練塀の崩れに、夏の日光の殊更明く照渡っているのを打眺め、何という訳もなく唯惆悵として去るに忍びざるが如くいつまでも彳んでいた。私たちは既に破壊されてしまった有馬の旧苑に対して痛嘆するのではない。一度破壊されたその跡がここに年を経て折角荒蕪の詩趣に蔽われた閑地になっている処をば、更に何らかの新しい計画が近い中にこの森とこの雑草とを取払ってしまうであろう。