Japanische Klassiker mit Furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.224 Zeichen · 269 Bildschirme
何故かというと、この渡場は今戸橋の下を流れる山谷堀の川口に近く、岸に上るとすぐ目の前に待乳山の堂宇と樹木が聳えていた故である。しかしこの堂宇は改築されて今では風致に乏しいものとなり、崖の周囲に茂っていた老樹もなくなり、岡の上に立っていた戸田茂睡の古碑も震災に砕かれたまま取除けられてしまったので、今日では今戸橋からこの岡を仰いで、「切凧の夕越え行くや待乳山」の句を思出しても、むかし味ったようなこの辺の町の幽雅な趣を思返すことは出来ない。むかし待乳山の岡の下には一条の細い町があって両側に並んでいる店付の質素な商店の中には、今戸焼の陶器や川魚の佃煮を売る店があって、この辺一帯の町を如何にも名所らしく思わせていたが、今はセメントで固めた広い道路となってトラックが砂烟を立てて走っている。また今戸橋の向岸には慶養寺という古寺があってここにも樹木が生茂っていたが、今はもう見られないので、震災前のむかしを知らない人たちには何の趣もない場末の道路としか見られないようになったのも尤である。平坦な道路は山谷堀の流に沿うて吉原の土手をも同じような道路にしたのみならずその辺に残っていた寺々をも大抵残るものなく取払ってしまった。