Japanische Klassiker mit Furigana
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きくちよしょう
菊千代抄
山本 周五郎
Lesen Sie 菊千代抄 (きくちよしょう) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.178 Zeichen · 72 Bildschirme
――もっとあたしに苦労を分けて呉れ。
――これ以上おまえに苦労はさせられない。
このやりとりが衝撃のように強く、いつまでも菊千代の頭に残った。愛情でむすばれた二人の、庇いあい劬り支えあおうとする気持が、少しの巧みもなくあらわれている。貧窮したみじめな生活は、かれらの「恋」をうち砕いたであろう、しかしそれに代ってもっと深く、もっと根づよい愛が二人をつないでいるのだ。
「さあもういい、帰ろう」竹次がそう云った、「――正太も泣くんじゃない、もう二三日すればお父つぁんも起きるからな、そうしたら三人でいっしょに稲刈りに来よう、まだ五日や七日おくれたって大丈夫だ、正太は鎌を持ちな」
三人が去ってからやや暫くして、菊千代は山道をかれらの家とは反対のほうへ気のぬけたような足どりで下りていった。頭がぼんやりして、胸の奥が熱いようで、足が地面から浮くような感じだった。
「――可哀そうな菊さん、可哀そうに……」
菊千代はふとこう呟いた。自分でそう呟いて、その声にびっくりして、立停って周囲を見まわした。近くに人の姿は見えなかった。もちろん自分が呟いたのである。
「――なんだろう、可哀そうな菊さん、……どうしてこんな言葉が今とつぜん出たのだろう」