Japanische Klassiker mit Furigana
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いっぺいそつ
蒲団・一兵卒
田山 花袋
Lesen Sie 蒲団・一兵卒 (いっぺいそつ) von 田山 花袋 (たやまかたい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.948 Zeichen · 59 Bildschirme
男はこの女を既に見知っているので、少なくとも五、六度はその女と同じ電車に乗ったことがある。それどころか、冬の寒い夕暮れ、わざわざ廻り路をしてその女の家を突き留めたことがある。千駄谷の田畝の西の隅で、樫の木で取り囲んだ奥の大きな家、その総領娘であることをよく知っている。眉の美しい、色の白い頬の豊かな、笑う時言うに言われぬ表情をその眉と眼との間にあらわす娘だ。
「もうどうしても二十二、三、学校に通っているのではなし……それは毎朝逢わぬのでもわかるが、それにしてもどこへ行くのだろう」と思ったが、その思ったのが既に愉快なので、眼の前にちらつく美しい着物の色彩が言い知らず胸をそそる。「もう嫁に行くんだろう?」と続いて思ったが、今度はそれがなんだか侘しいような惜しいような気がして、「己も今少し若ければ……」と二の矢を継いでたが、「なんだばかばかしい、己は幾歳だ、女房もあれば子供もある」と思い返した。思い返したが、なんとなく悲しい、なんとなく嬉しい。
代々木の停留場に上る階段のところで、それでも追い越して、衣ずれの音、白粉の香いに胸を躍らしたが、今度は振り返りもせず、大足に、しかも駆けるようにして、階段を上った。