Japanische Klassiker mit Furigana
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けさともりとお
袈裟と盛遠
Lesen Sie 袈裟と盛遠 (けさともりとお) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.566 Zeichen · 16 Bildschirme
が、もし強いて考えれば、己はあの女を蔑めば蔑むほど、憎く思えば思うほど、益々何かあの女に凌辱を加えたくてたまらなくなった。それには渡左衛門尉を、――袈裟がその愛を衒っていた夫を殺そうと云うくらい、そうしてそれをあの女に否応なく承諾させるくらい、目的に協った事はない。そこで己は、まるで悪夢に襲われた人間のように、したくもない人殺しを、無理にあの女に勧めたのであろう。それでも己が渡を殺そうと云った、動機が十分でなかったなら、後は人間の知らない力が、(天魔波旬とでも云うが好い。)己の意志を誘って、邪道へ陥れたとでも解釈するよりほかはない。とにかく、己は執念深く、何度も同じ事を繰返して、袈裟の耳に囁いた。
すると袈裟はしばらくして、急に顔を上げたと思うと、素直に己の目ろみに承知すると云う返事をした。が、己にはその返事の容易だったのが、意外だったばかりではない。その袈裟の顔を見ると、今までに一度も見えなかった不思議な輝きが目に宿っている。姦婦――そう云う気が己はすぐにした。と同時に、失望に似た心もちが、急に己の目ろみの恐しさを、己の眼の前へ展げて見せた。その間も、あの女の淫りがましい、凋れた容色の厭らしさが、絶えず己を虐んでいた事は、元よりわざわざ云う必要もない。