Japanische Klassiker mit Furigana
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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
Lesen Sie 親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選 (きく) von 山川 方夫 (やまかわまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 67.486 Zeichen · 144 Bildschirme
のを、女は生まれてはじめて知った。
眠られぬ夜がつづいた。女は、すべてのおつとめに手がつかなかった。武士を思い出すことはいらなかった。杯に目を落して、「うつくしい」と呟くようにいったときのまだ若い武士のすがた、恥じたように目を伏せたその横顔が、まぶたの裏に鮮明に貼りつき、それはひとときも消えることがなかった。
武士はたぶんまだ二十にならず、官位もないただの従者の一人に違いなかった。彼の烏帽子には縁もなく矢車のも着いてはいず、彼は粗末な布地退紅の狩衣に縹色の短い袴をはき、ただ鮫皮を張った柄に毛抜の飾りのついた蒔絵づくりの太刀、馬に乗るための鐶と〆緒のついた靴だけが、彼を公家武官の一人として、雑色(下男)どもと区別していた。まだ少年の面影をとどめていた頬。ちらと見せた真白な草食獣のような歯。……女にとり、そのすがたは日ましに鮮明さの度を加えて、ちらりとでも自分の中に住んでいるその「彼」に目をやるたび、女の全身には炎が燃え、熱い火がゆらめくのだ。女は、放心した表情を見せることが多くなった。
中宮が、かつて見せたこともない女のその異常に気づかれないはずはなかった。