Japanische Klassiker mit Furigana
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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Lesen Sie 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 26.416 Zeichen · 53 Bildschirme
八
八
春の雨だとたかをくくっていたが、金杉の通りへ出ると降りが強くなり、やがてどしゃ降りになった。佐八はままよと思い、手拭をかむった頭からずぶ濡れになりながら、ゆっくり歩いていくと、若い女中が呼びかけ、印のある番傘を貸してくれたのである。
――どうせ濡れちまってるんだ。
――でも躯に悪いから。
そんなやりとりをしたうえ、彼はその傘を借りて帰った。それがおなかであった。
傘を返しにいってから、佐八はおなかが忘れられなくなった。雨の中をとんで来て、「でも躯に悪いから」と傘を貸してくれたとき、すでにその眼顔や声にひきつけられたらしい。それからむりに呼びだして、幾たびか入谷の田圃で逢った。むりではあったが、おなかは拒まなかった。そのうちに休みの日ができて、二人は谷中の天王寺でおちあい、佐八は自分の気持をうちあけた。
――うれしいわ。
おなかは蒼ざめた顔でそう云った。その「うれしいわ」という単純な言葉が、まるで朝顔の花が咲くのを見るような、新鮮ですがすがしい感動を佐八に与えた。
――うれしいけれど、だめなの。
蒼ざめた顔のままで、おなかはそっとかぶりを振った。