Japanische Klassiker mit Furigana
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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Lesen Sie 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 26.416 Zeichen · 53 Bildschirme
佐八はなにも訊かず、おなかもなにも話さなかった。蕎麦が来たが、二人とも箸をつけないままで、やがて立ちあがり、佐八が赤児を背負わせてやった。
――仕合せにやってるんだね、と佐八が訊いた。
――ええ、とおなかは口の中で答えた。
――もう逢えないだろうな。
おなかは答えずに、背中の子をゆすっていた。蕎麦屋を出たところで別れ、佐八が見送っていると、曲り角のところでおなかが振返り、こっちを見ておじぎをした。
「それから五六日、私はまったく仕事が手につかず、久しいこと口にしなかった酒を飲んで、酔っては寝、酔っては寝るという始末でした」佐八はそっと頭を振った、「自分の躯の半分がおなかのほうへ取られて、おなかのやつといっしょに苦しんでいる、といったような気持でした、どういうわけなのか、やっぱり憎いとかくやしいという気は少しも起こらない、別れたときのうしろ姿、振返っておじぎをした姿が眼にうかぶと、ただもう哀れで哀れで、息が止まるように苦しくなるんです」
そして或る日の夕方、むじな長屋へおなかが訪ねて来た。
佐八は酔って寝ころんでいた。おなかは赤児を伴れていず、うちへはいるとその手で入口の雨戸を閉め、あがって来て、そっと佐八の側へ坐った。