Japanische Klassiker mit Furigana
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そらとぶあくま
酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕
酒井 嘉七
Lesen Sie 酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕 (そらとぶあくま) von 酒井 嘉七 (さかいかしち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.471 Zeichen · 28 Bildschirme
話が血縁に関係すると、自分はいつも遣瀬ないまでの憂鬱感に襲われ、暗澹とした闇の中に突き落されて、しばしは我にかえることもない。――私はK市で生れてK市で育った。学業の数年間を除いて四十年余、自分はこの街を離れたことはない。母は私を生むと直ぐに病死した。父は新しい配偶者を求めることなく、私は乳母の手によって養育された。父は私が最高学府の教育を終ると、少くない資産を残して没した。――こういえば話は平凡である。しかし私は幼い時から深い疑惑を、密かに自分の小さな胸に抱いていた。父は私の母に関しては何事も語ろうとせず、幼時、折にふれて、母のことに一と言でもふれると、父の顔色はさッと変って、そそくさと座を立つか、突然に面白いことを云い始めて、大きな声で笑い、私の関心を他に向けることに力めた。こうしたことが二三度あって、私は幼いながらにも母のことは、決して口にしてはならないのだと会得した。父は私が大きくなっても母に関することは一言も語ろうとせず、また私も敢て聞こうともしなかった。私がこの問題を父の前に提出しなかったのは、それが父にはタブーであることを熟知しているからに外ならなかった。