Japanische Klassiker mit Furigana
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そらとぶあくま
酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕
酒井 嘉七
Lesen Sie 酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕 (そらとぶあくま) von 酒井 嘉七 (さかいかしち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.471 Zeichen · 28 Bildschirme
いや、それよりも実のところ私の心の底にあった真実の理由はそれほど単純な明確なものではなかった。私は母に関する事実を父の口から聞くことを極度に恐れていたのだ。父は幼い時から、かほどまでに自分を愛してくれた。その父親が、お前はK市で生れた。母はお前を生むとすぐに病死した、という。聞かせてよければ、愛し子が心のうちでは夢にまで恋いこがれているであろう母親のことである。毎朝毎晩でも語りつづけてくれたことであろう。聞かせたくない事実が秘められていればこそ語ることを避けるのであろう。それを何を好きこのんで秘密の箱を抉じ開けようとするのか。中から飛び出してくるかも知れない悪魔が自分を不幸のどん底につき落すかも知れないではないか、私はこう恐れていた。
……父親はこの問題に関しては遂に一と言も口にせず幽冥境を異にした。
○月 ○日
子供に秘められた血族関係の問題は世に多い。しかしいかほど堅固な「箱」に封じこまれていても、この種の「秘密」は必ずその「箱」のどこかに漏口を見出して、何時かは子供の前に多かれ少なかれ流れ出る。私の場合、この「箱」は非常に堅牢なものであり、その上私自身それに近づくことをさえ回避していたのである。