Japanische Klassiker mit Furigana
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おちぼ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Lesen Sie 野菊の墓 (おちぼ) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N3. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N3 · Mittel · moderne Kanji und Kana · 25.621 Zeichen · 52 Bildschirme
新兵衛はそういって自分から茶を入れる用意をした。自分は新兵衛が何となくこそっぱゆかった。新兵衛は用意ができても、しばらく女房の帰るのを待つ風であったが、容易に女房が帰って来ないので、「さあ鉄っさんごちそうになるべ。」といって茶を入れた。自分は隣の人声にばかり気をとられて、茶も菓子も手にはつかない。「お菊がいないのじゃないかしら、しかしいなけりゃなお帰ってくるはずだ。」などと独りで考えていた。耳をすまして聞くと女房の声はよく聞こえる。どうやらお菊の声もするように思われる。
「鉄っさん茶飲まねいかよ髪でも結ってっだっぺい今ん来るよ。」
新兵衛はやや嘲笑の気味で投げるように笑った。自分はそれに反抗する気力はなかった。ただもう胸がわくわくしてひとすじに隣のようすに気がとられた。
話し声が近く聞こえると思うと、お菊の声も確かに聞きとれて、ふたりが背戸からはいってくるようすがわかった。まもなくまっ黒な洗い髪を振りかぶった若い顔が女房の後について来た。お菊は自分を見るとすぐ横を向いて、自分の視線をさけるようすであった。それでもあえて躊躇するふうもなく、女房について炉端へあがって来た。