Japanische Klassiker mit Furigana
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おちぼ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Lesen Sie 野菊の墓 (おちぼ) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N3. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N3 · Mittel · moderne Kanji und Kana · 25.621 Zeichen · 52 Bildschirme
矢野はからだを横に、身を片ひじにささえながら、ザボンを片手にもてあそびつつ、大木の談論を聞いてる。にこにこ笑う顔に病人らしいところは少しもない。矢野は手紙ではよく自分の考えやときどきの精神状態や、周囲のでき事までほそぼそと書くのがつねであるが、会ってはあまり話のない男である。大木も矢野のようすが意外によろしいのに安心して、大いに文学論などをやった。
「医学は君の職業だ。文学は君の生命だ。しかし君人間に職業のだいじなことはいうまでもないことであるから、健康の許すかぎりやらねばならん。そうだろう君。」
矢野はからだを起こし居直って、
「なるほどそうだ、それに違いない。それで僕は腹がきまった、僕はやる……」
矢野は興奮した口調にいうのであった。わかりきったことでも、まじめに大木の口から聞かせられると、矢野はいつでも感奮するのである。
蚊遣りが出る。月がさしこんでくる。明りがつく。端近にいると空も見える。風はまったく凪げて静かな夜となった。熱くもあり蚊もいるが、夜はさすがにあらそわれない秋の色だ。なんとかいう虫も、人の気を静めるように鳴く。
「君なんの事でも、急いちゃいかんよ。