Japanische Klassiker mit Furigana
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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
Lesen Sie 霧の蕃社 (きりのばんしゃ) von 中村 地平 (なかむらちへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.389 Zeichen · 57 Bildschirme
夫は制服の脚に黒い脚絆と草鞋とをつけ妻君はたまさかにとり出して着た晴れ着の尻をはしょって、高い峰の細い山径づたいにいそいそと連れだって歩いてくる。径から谷にむかって、低く垂れている、狭い、急な段々畑には、背に籠を負い、脚にまっ赤な脚絆をつけた蕃人の娘が佇んでいて、訊ねかけてくることもある。
「大人、奥さん、どこ行くか」
「霧社まで……あしたは霧社で運動会があるのよ」
晴れ着の背に送られた蕃婦の羨しそうな視線を意識しながら、妻君は急ぎの脚をふりむきもしないで、浮ついた調子に答える。霧社に着くと人々は、それぞれ宿屋や、知人の家に分宿しなければならない。受けもち教師に引率されて既に先着している子供たちが、そこでは自分たちの来るのを待っているのである。
夜が大変である。運動会の前夜は毎年の例に従って公学校で学芸会が催される。自分たちの子供が蕃童に混って、朗読や、唱歌やを演ずる合間には、知りあいの誰彼に、積りに積った一年ぶりの挨拶を交わさなければならないのである。鵞鳥が増えたこと、百歩蛇が鶏と喧嘩したこと、誰それが転勤になって平地に降りたこと、――熱に浮かされたように、そういうことを語りあう女たちの顔にはみんな云い合わしたように白粉の匂いがぷんとしており、その珍しい匂いがまた男や女やの気もちをいっそう賑やかに弾ませて