Japanische Klassiker mit Furigana
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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
Lesen Sie 霧の蕃社 (きりのばんしゃ) von 中村 地平 (なかむらちへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.389 Zeichen · 57 Bildschirme
五
美しい山々につつまれた、霧の多いこの部落も、体の内部にはどんづまりな、末期的な疾患の徴候が諸処に現れていたのである。
そして、老境を目前に見る婦人が、青春への思慕と執着とのために、生理的な焦慮と煩悶とをかさね、時に意外な、規に外れた行動へ走るのと同じい事情のもとに、蕃人たちは燃え残りの、残蝋のような野性や、兇暴性やを駆りたて、無謀にも自分たちの性にあわない生活の形式――つまりは文明へ最後の格闘を試みよう、としたのであった。
五
これより先、同じい年の三月。時の台中州知事水越幸一は、蕃情を視察する目的をもって、蕃社に来遊した。
いったい霧社は亜熱帯とはいえ高さは海抜既に四千二十余尺、気候の暖さは内地の春と殆んど変りはないのである。しかも、辺りの山々は春霞のなかにうっすらと重りあって聳えたち――それらの緑を背景にして、高台いったいの桜樹は今やま盛りに、その花ばなの見事さを誇っている……足もとはるか低く濁水の渓谷を眺める台の一角に佇み、柔媚な山々の眺めにつつまれた時、知事水越幸一は、一種郷愁に似た感傷を覚えざるを得なかった。日頃、政務に追われ、怱忙の日を送っている俗情は、どこか遠い山の端へ消えさってゆく感じだったのである。