Japanische Klassiker mit Furigana
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まと
魔都
久生 十蘭
Lesen Sie 魔都 (まと) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 293.999 Zeichen · 578 Bildschirme
横はすぐ山王様の境内に続くので至って閑邃な場所。
この家は日本橋の袋物問屋の、洋行帰りの若且那が外国で見て来たアパートを趣味にまかせて建てさせたもので、アパートとはいいながら六畳一間にガスと水道がひいてあるというようなそんなお手軽なものではなく、どの部屋にも足首の埋りそうな朽葉色の厚い絨氈が敷き詰めてあろうという豪奢な取り廻し。一廓が居間と寝室と食堂と浴室と料理場の五室からなり、入口のドアで仕切られて他の廓から独立するようになっている。従ってこのアパートに住んでいるのは富豪の妾とか外国帰りの若夫婦とか、それとは見えぬ高等内侍とか、いずれも金も趣味もある有閑人種ばかり。
今しも崖に面した二階の窓を押し明け、その縁に造りつけになった花棚から見事な蘭の鉢を取入れながら、匂うばかりの新月の眉を顰めながら軽く舌打ちをしている、年のころ廿四五のまだ幼な顔の失せぬ愛らしい面持ちの美人。居間に続く食堂の方に向って、
「婆や婆や、お前はまたこの「安南王」をとり入れなかったのね。折角あの人が印度支那からようやく買ってきたものを、枯らしでもしたら粗末にでもしたようで妾が困るじゃないか、ほんとに仕様がない婆やねえ」