Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

Lesen Sie 鳴門秘帖 (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 56.957 Zeichen · 114 Bildschirme

Aozora Bunko

疑心暗鬼

気がついてみると、午後も早遅いのではあろうが、にわかに空も地もドンヨリと薄ぐらく、剣山の肩の一部が、まッ黒に見える以外は、いちめんなる雲であった。その雲の裡には、甲賀世阿弥が、今も血汐の筆をとって、秘帖に精をしぼっているだろう。

雲の奥か、地の果てからか、おそろしい響きが人身に感じてきた。

煙草畑の娘たちは、雑草抜きをやめて姿をかくした。やがて、土佐境の空には春雷が鳴っていた。

疑心暗鬼

諏訪の温泉町は、ちょうど井桁に家がならんでいる。どこの宿屋にも公平に内風呂というものはないので、その井の字なりの町のまんなかにある三棟の大湯へ、四方の旅籠のお客様がみな手拭をブラ下げて蝟集していた。

ここは木曾路をへてくる上方の客、信濃路からくる善光寺帰りの旅人、和田峠をこえて江戸の方角から辿りつく旅人などが、一夕の垢を洗うべく温泉をたのしみに必ずわらじを脱ぐので、中仙道の宿駅のうちでも指折りな繁華をみせていた。

夕方の六刻というと、もう三道の客が織るように入ってくる。温泉町の入口は馬や駕や運送の人足で埋まっていた。昼間はさしては白くもみえない湯けむりが、宿屋の軒にまでモクモクと這いだして、硫黄の匂いまでがなんとなく生新しく鼻をうってくる。