Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖 (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 56.957 Zeichen · 114 Bildschirme
叫んだけれど声は出ない。さいぜんお十夜のために、扱帯を解かれて猿ぐつわをかけられていた。
「ちイッ……」無駄と知りながら、お綱はもがかずにはいられなかった。叫ばずにはいられなかった。
「弦之丞様ア!」
必死に喉をからしているつもりでも、天地は森として笛の音以外の何ものも伝えない。ただ、お綱の体が根笹の中にひとりでのた打つばかりである。
冷々と樹海の空をめぐっている山嵐の声と一節切の諧音は、はからずも神往な調和を作って、ほとんど、自然心と人霊とを、ピッタリ結びつけてしまったかのごとく澄みきっていた。
木々に精があるなら、花に化身があるなら、あなおもしろの交響よ! とこの宵月に舞踊するであろう。
々としてやまず、呂々として尽きるところを知らぬ一節切の吹き人も、今は現であるだろうか。吹いては一歩、流しては一歩、夜旅の興趣と、おのれの芸味に酔いつつ来るのだろうか。
いや、一片の風流子の心事と、法月弦之丞の心に波うつものとは、大なる隔てがある筈だ。したがって、同じ竹枝の奏びにしても、その訴えるところは、巷や僧院の普化たちとは必然なちがいをもつ。
かれはおそらく、この木曾の夜の道を踏んで、あの禅定寺峠の頂に、骨を埋めている唐草銀五郎のおもかげを、目にうかべずにはいられまい。