Japanische Klassiker mit Furigana
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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
Lesen Sie 黒死館殺人事件 (こくしかんさつじんじけん) von 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 296.741 Zeichen · 584 Bildschirme
その扉には鍵が下りてなく、石扉特有の地鳴りのような響を立てて開かれた。ところが、不思議なことには、前室が爛れんばかりの高温にもかかわらず、今や前方に開かれてゆく闇の奥からは、まるで穴窟のような空気が、冷やりと触れてくるのだ。そして、扉が一杯に開ききられたとき、その薄明りの中から、法水は自分の眼に、眩み転ばんばかりの激動をうけたのだった。パッと眼を打ってきた白毫色の耀きがあって、思わず彼は、前方の床を瞶めたまま棒立ちになってしまった。それはけっして、この僧院造り特有の、暗い沈鬱な雰囲気が、彼に及ぼした力ではなかったのだ。
礼拝堂付近の図
そこの床上一面には、数十万の白蚯蚓を放ったかと思われるような、細い短い曲線が無数にのたうち交錯していて、それが積り重なった埃の上で、地の灰色を圧していて、清冽な――しかし見ようによっては、妙に薄気味悪く粘液的にも思われる白光を放っているのだった。――それは、瞶めていると、視野に当る部分だけが、荘厳な紋章模様のような形になって、宙に浮び上り、パッと眼に飛びついてくるのだ。その光は、さながらゴットシャルク(第一十字軍以前の先発隊を率いた独逸の修道僧)の見た、聖ヒエロニムスの幻のように思われる。