Clásicos japoneses con furigana
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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
Lee 源頼朝 (みなもとよりとも) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 306.118 caracteres · 613 pantallas
石橋山
一
その晩は、敵に襲われる惧れもまったくなかった。
また味方から敵へかかろうとする能動的な気もちも、起そうとしても起らなかった。
それほど、人間の存在は、力のない小さいものになって、唯、伊豆山中をふき暴れる豪雨と、風の吠える声と、闇ばかりが、天地であった。
「――十四の時すら死ななかった。それから二十年も死なずに来た。今、旗挙げをして、山木兼隆をその血まつりに討ってから七夜目、わしはまだ死んでいない」
頼朝は、瞑目して思う。
「わたしはよほど、運がよいとみえる。いや、神仏の加護に見まもられている生命の持主とみえる。このぶんなら三十三歳の今年も、いや五十までも、七十八十の先まで、生きとおして行けるかもしれない」
洞窟の口が、真っ白なしぶきになると、瞬間、洞のなかは真空になる。窒息してしまいそうな風圧を面に感じる。
「――生きている」
こんな自然の暴威の中にも、寂として、生きているかと思うと、彼は、何ともいえない爽快を覚えた。――ようやく、日頃の細かい神経や肉体のうちに住んでいる臆病虫が、こよいの暴風雨に、颯然と、相模灘の彼方へふき飛んで行ってしまった心地がする。