Clásicos japoneses con furigana
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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Lee 光は影を (ひかりはかげを) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 138.262 caracteres · 276 pantallas
今さら、かつての秘めたる恋の相手、味岡小萩に会つて、それをどうしようというほどの決意があつたわけではない。たゞ、今朝の手紙は、彼の心を揺り動かし、そのまゝじつとしていられなくなつたというだけのことである。かの女の噂を百瀬から聞くだけでもよい。もしも、その嫁いだ先の農家というのを、遠くからでも眺めることができたら、いくらか気がすむのではないか。そうはいうものゝ、うつかり顔を合せるようなことはないであろうか。手紙には「麦ふみを終えて」とあつたけれど、野良に出ることがあるとしたら、その後ろすがたをちよつと見てやりたいものだ。あの都会育ちの娘に、そんなことがどうして出来るのか。戦争はある人々の生きかたを強いて変えさせたことは事実だ。しかし、まつたく変えきれるものかどうか……。
中央線の旅といえば、中学時代に諏訪湖へ行つたことがあるきりである。まだ若葉というには早い山裾の樹々の芽吹きは、夜明けの爽かな空気のなかで、眼に沁むような艶をみせていた。
思えば酔興な旅である。京野等志は、われながら、おかしくなつた。もうとつくに自分とは縁のないものと思い、たゞその後の消息がわかれば知りたいと、かすかに心のなかで念じていた味岡小萩は、いつたい、いまの自分にとつて、どういう存在なのであろう? と、自問自答せずにはいられなかつた