Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(一) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 246 214 caractères · 495 écrans
山中五里。――その夜の泊りも、ひどい山宿だった。雨露をしのぐだけの掛屋根、莚があるだけの猪小屋。
もっとも、十六夜日記の筆者が、この山中に宿った夜は、寝小屋もないまま、柿の木の下に油単をかけ、落葉を敷いて、まどろんだところ、やがて熟れ柿の実が、ぼとぼとと落ちて来るので寝つかれもせず、果ては、柿を拾って食べつつ、人々、夜の白むのを待ち明かした――などと見える。
とすれば、草心尼と覚一が、やっと身を休めうるほどな破れ屋でも見つけたのは、まだいい方であったかもしれぬ。
だが、母子には、しょせん、寝つかれはしなかった。――途中、藤夜叉と告げて風の如く消え去った者のきが「……あらぬ嘘か」「真実か」と、まだどこかでは迷われている。そして、恐怖だけは、迷いとべつに、尼の神経を冴えさせるばかりだった。山音、風の歩み、雨のようなこおろぎの啼く音も援けて。
そのうちに、ガタと板壁の隣で、物音がした。抱きついている覚一の手のさきを、尼は乳のあたりで痛く感じた。
「おいっ、御厨、外へ出ろ」
まぎれない従者の八郎太の声である。つづいて御厨ノ伝次の声がするどく聞えた。
「この真夜半。