Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans
それとは義貞も心で打消してはいたが、やはり多少はそぞろめいて、その折、千種忠顕から女の名やら素姓などは訊きさぐってみたのであった。――で、知りえたところによると、彼女は一条行房の妹で、宮中での御所名は、
勾当ノ内侍
と呼ばれているという。
内侍とあるからにはもちろん御寝に侍る御息所や更衣にならぶ女性のひとりにちがいない。高嶺の花だ、訊かぬがましであったよと、義貞はなおさら失望したものだった。
けれど、栄達と名声と、彼の昨今には、彼を満すものが充分だった。さらには、尊氏追討のもう一段階もひかえている。彼の失意も空洞とまではならずに忘れかけていた。そうして、せっかく忘れかけていたものをである。またも思い出させるなどはあの忠顕も罪がふかい。――彼が言ったこよいの同伴者とは誰なのか。――それに代るべき女でも連れて来る気か。でなければ、まったく何かべつな用か。
「…………」
湯ぶねのうちで、義貞はうっとり思い耽っていた。外はおぼろ夜らしく、湯殿の窓にも花の影がサヤサヤあった。
ふるさとの花、世良田ノ館の桜もふとおもい出されてくる。恋が成っても破れても、男には忘れえぬ女が生涯に一人はかならずあるというが、それが自分には草心尼であったかと、義貞はいま知った。