Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans
すると尊氏は初めて、
「頼春」
と、重い口をひらき、身に掛けていた袈裟を外して、
「袈裟筥へおさめておけ。そしてまず朝飯を食おう。それからすぐ身仕度だ、具足櫃を取出して来い」
と、いいつけた。何か凛とした語気だった。そして命じ終るやいな本堂を立って方丈の方へ行ってしまった。
「や、や?」
頼春は躄るように、主君の姿を、廊の外へ追いふためいて。
「殿々、よろい櫃とは、お身仕度とは、ご出馬のご用意にござりまするか」
「おおよ!」
遠くの房の内で、尊氏の返辞が、大きく聞えた。
本堂前には大焚火が焚かれた。浄光明寺のうちも外もたちまち活気と人ざわめきの坩堝と変り、尊氏は、あらためて方丈へ呼びよせた上杉重房と須賀左衛門のふたりへ、
「すぐ行け」
と、何事かを命じていた。
ふたりはすぐ馬にとび乗って山門を出て行った。おそらくは鎌倉じゅうを駈けまわり、なお各所の木戸や屋敷には多少残っている留守の将士へ、尊氏の出馬を告げ、
「すぐ御馬前へ集まれ」
と、布令に廻ったものに相違なかろう。
尊氏はそのあとで芋粥を三杯も喰べた。出陣には武門しきたりの古式もあるのだが、家族はおらず、時もこんな場合である。