Classiques japonais avec furigana
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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Lisez 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 203 094 caractères · 411 écrans
かれはふるえる手先きで采女の顔や身体を撫で廻すと、その髪は顔や襟に乱れかかっていた。小袖もところどころ斬り裂かれて、肩や胸のあたりには生々しい血汐がねばり着いているらしかった。大勢の敵を相手にして、彼は数ヵ所の深手を負ったのであろうと想像しながらも、小坂部はそのほんとうの姿を見定めることの出来ないのをもどかしく思った。
「燧石はなくとも、何か火を焚くすべは……。」
「さあ。」と、男はやはり冷やかに答えた。
いよいよもどかしくなって、小坂部は起ちあがった。この社のような建物の中に燈明か燈籠のたぐいはあるまいかと、かれは伸び上がって覗いて見たが、闇は奥までも沁み込んで、そこには秋の蛍ほどの光りも見えなかった。小坂部はまた失望して、くずれるように男の死骸のそばに坐ってしまった。しょせん生かす術はないと知りながら、かれは男の死に顔をしみじみと覗きたかった。
眇目の男に誘われて、采女と一緒に都をぬけ出した――今から思えば、それがもう夢のようであった。それから方角も判らぬところを迷いあるいて、侍従はまず川の底に沈んでしまった。つづいて今夜は塩冶の人々のほろびる姿を見せられた。