Classiques japonais avec furigana
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せっしょうだにのおにび
殺生谷の鬼火
山本 周五郎
Lisez 殺生谷の鬼火 (せっしょうだにのおにび) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 9 545 caractères · 19 écrans
例の声は急に高くなった。敦夫は悟られぬように注意しながら、蘆の隙間越しに伸上って見た。すると黒い外套の男は、沼の右手にある裸岩の蔭へすっと隠れて了った。
「あんな処で何をするんだろう」
そう思いながら待っていた、長い時間だった。雨の日の暮れ易い空は、いつかもうどす黒い夕闇がのしかかって、沼の水ばかりが鈍色に光っていた。――凡そ一時間も経ったかと思われる頃、突然ざわざわと男の戻って来る気配がしたので、敦夫は再び蘆の茂みへ身を隠した。男は足場を選びながらゆっくり歩いて来る、四辺が静かなので、身動きをしても気付かれるに違いない。――誰だか慥めてやりたい。
という烈しい誘惑を押えながら、敦夫は辛棒強く男の通過ぎるのを待った。――そして黒い外套の頭巾が、全く蘆の彼方へ見えなくなるのを見定めて、沼の縁を例の裸岩の方へと進んで行った。――それは半分沼の中へ突出た粗面岩で、高さ十二呎あまりの、丁度巨人が横伏したような恰好をしている、敦夫はその岩へ登って、さっき男の姿の見えなくなった辺を覗いて見た。……すると岩の蔭になったところに、人が跼んで入れるほどの洞穴のあるのを発見した。