Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(一) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 246 214 caractères · 495 écrans
もいちど足であやしてやる。放せ」
放されたが、犬は一気にバッとは来ない。要心ぶかく、のそのそと近づいた。そして、底知れぬ獰猛さを雪白の毛並みにうねらせた。だのに又太郎は、われから革足袋の片方を上げて、彼の鼻ヅラへ見せている。
犬は疑った。ちょっと、姿勢を低くした。が、それは支度か、いきなり桃色の口をかっと裂き、相手の足首へ咬ぶりついた。咄嗟に、又太郎はその足を引くことなく、逆に、足のツマ先へ槍のごとき迅さを加え、犬の喉ふかくまで突ッこんだ。それは、あるまじき光景だった。異様な絶叫が人の耳を打ち、白い尾も胴体も意気地なくころがッた。
いや、それも見ず、又太郎は小酒屋を飛び出していた。幾人かを刎ね飛ばした覚えはある。だが、振向いて後ろへ呼ぶには、数百歩の宙を要した。
「右馬介、右馬介っ。早く来い。逃げるが一手だぞ」
わざと五条橋を避け、主従とも、七条河原へまぎれたのは、相手の追尾よりも、帰る先と、身分を知られることの方が、より恐かったからにちがいない。
「いやどうも、若殿のお悪戯には、驚きまいた。物にもよりけり、相手にもよるものを」
「やはり酒のなせる業だったな」