Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(一) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 246 214 caractères · 495 écrans
いっそ、和子を奪り返して、身を隠そうか。……時には、鬼になりそうな気もして来て」
「鬼に」
高氏は、さっきから見ていたのである。以前にはあった野性美は削がれて、どこか智恵に磨かれてきた彼女の美には、いたく窶れが潜んでいる。不眠の夜がつづくというのはほんとであろう。そして、生きながらの鬼を自分の心に思う女が、夜半、どんな幻覚を夢うつつに抱くだろうか。傷々しくもあり、恐ろしくもある。
と、廊の外で、小侍の声だった。
「若殿、お召しでございます」
「たれが」
「御病間の方で、大殿が」
「そうか。いままいる」
――それを、機に、
「藤夜叉、はや帰れ。……そして立帰ったら、道誉に申せ。おこころざし、まことに過分、高氏、きもに銘じおきますと」
「あ、お待ちなされて」
起ちかける高氏の袂へ、初めて、藤夜叉の白い手が絡んだ。
「近いうちに、もいちどお目にかかれましょう。けれど、その日は、こんなお話もなりますまい。どうぞ、もすこし下にいて」
「なに、また近いうちにだと」
言いかけたが、そのときチラと、北廂の簾の外でうごいた人影が見えたので、高氏は、はっと口をつぐんだ。――しかもそれは、伯父の上杉憲房らしく思われた。