Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans
急に、つきつめたその眸に涙さえ差しぐんで。
「左中将さま。居てもよろしいのでございましょうか」
「居てもとは」
「おそばに」
「そなたさえ居る心なら」
「わたくしはもう……」
と、彼女は思いきったようにあふるる涙と共に言った。
「ここへ来て、真実ほっといたしました。内裏という火宅をのがれ出てきたような思いがして」
義貞は内侍のことばをあやしんだ。内裏も火宅同様とは。
煩悩の炎、その中での業苦遁れ難い人間の三界住居。――それが仏典でいう「火宅」と彼は承知している。
内裏の後宮もまたそんな所だろうか。勾当ノ内侍は、問われて袂を濡らすばかりだったが、やがて、とぎれとぎれに語りだした。いまは義貞にゆだねるしかない女の一生と、どこかで観念のみえるのもあわれであった。
彼女の生家は公卿中での名門である。とくに兄の一条頭ノ大夫行房は、隠岐配所にまでお供をして、始終、帝とあの一ト頃の艱苦を共にした侍者の一人でもあったから、還幸の後は、みかども、いちばい行房にはお目をかけられ、末の妹の勾当ノ内侍も後宮に入って、あまたな妃嬪のうちでさえかがやく寵幸を身一つにほこっていた。
これだけならば、彼女になんの不足があろう。