Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans
あれもそのままがよい、そのままが」
彼はもうそとへ出て、駒繋ぎ桜を通りこしていた。一童子の背に巻を負わせ、先へ山杖ついてゆく藺笠姿は、守護の御領主とはたれにも見えそうもない。画中の一道者か山人のようである。
が、下赤坂城の近くへ来ると、ちょうど大手へ曲がりかけていた一群の雑人どもをうしろに、爺の左近が目ばやく気づいて、遠くの方で立礼していた。
おそらくは、爺の注意によって、爺に導かれていた鳶七や以下の職人たちも、
「え、御本屋様か」
「あれが、正成様だって」
と、あわてて礼を揃えていたものだろう。どれもこれも、首をあげて、あと見送りながら言っていた。
「えらくお身軽なもんだな。河内の殿さまは」
「お供といったら童ひとり連れたきりでよ。ねえ御老臣さま」
「いつもここの殿さまはああなんですかい。あれでどこへお出かけなんで?」
爺の左近は、
「ご参詣じゃよ」
と、それへ言った。
ぶっきら棒な答えでしかなかったが、彼ら凡下の推量りで、殿を軽んじるようではならぬと考え直したか、また自分からこう語り初める――
過ぐる年の千早、金剛一帯の攻防戦では、何万人が死んでいる。お館さまには、諸所に遺骸を寄せて、そのご敵味方なくご供養されてきたが、今日も御自身写経の何巻かを山上の御寺へ納めにおいでられる。