Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans

Aozora Bunko

それの心配からだった。

「それにしろ……」

と、尊氏は、愚痴なほど、独りくやんだ。なぜもっと、いたわってやらなかったか。

直義の軍功は、またその心労は、抜群である。一族、どんな将であろうと、彼が兄の自分につくしてくれた誠実と献身には遠く及ばない。――きのうの楠木攻めの処置にしてもよく自分の軍命を守って、正成の首級をも、大事にこれへもたらして来た。

だのに、出来したとも、あの折、言ってやらなかった。もし直義でないほかの将だったら、大いに、型のごとき賞め言葉も出たのであろうが、弟にはついそんなことなど、いわなくても分っているだろうですませてしまう癖がある。――おれの癖だ。――尊氏は独りしばしばこんなくやみを胸では喞つ。

ところで。

弟へのそんな表面の素気なさにひきかえて、彼は、正成の死にたいしては、味方の諸将もあやしむほどな鄭重さをもってあつかわせた。すでに昨夜のうち、白木の首台を設えさせて、自分の幕舎のうちに祀るがごとく据えさせておく始末であった。直義からそれをいわせれば、このように味方といわず敵といわず、兄は他人にはじつにいい人だ、寛大さも、愚かといっていいほどだと、その情に添うよりは、その底なしの凡情ぶりを杞憂するにちがいなかった。