Classiques japonais avec furigana
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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Lisez 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 203 094 caractères · 411 écrans
」
呼ばれて起ち上がろうとするかれの袂にしがみついて、侍従は必死の泣き声を立てた。
「一生に一度のお願い、何とぞわたくしの命乞いを……。命ばかりは……命ばかりは……お願いでござりまする。」
小坂部は呆気に取られた。さっきは眇目の男といい、今は采女の使いといい、侍従のこの有様といい、何が何やら判らない出来事ばかりが繰り返されるので、かれも何だか夢のように思われたが、ともかくも侍従を好い加減になだめて、早々に父の前に出て見ると、師直の気色は想像以上に暴かった。彼は傷ついた虎のように哮っていた。
「小坂部。遅かったぞ。兼好めは何と申した。」
「あいにくに不在でござりました。」
「物の用にも立たぬはやはり手書きじゃ。」と、師直は罵った。「不在でもよい。もう何もかもみな判った。重きが上の小夜衣は『さなきだに重きが上の小夜衣、わがつまならぬつまな重ねそ』とある、新古今十戒の歌じゃ。」
小坂部はじっと父の顔を見直した。重きが上の小夜衣を衣小袖の所望と勘違いしているほどの父にむかって、そんな講釈を誰が教えて聞かせたのであろう。ゆうべ侍従からその歌の返しを聞いた時に自分はもう意味を覚っていたのであるが、父がそれを知ろう筈はない。