Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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あにきのようなこころもち

大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ

芥川 竜之介

Lisez 大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ (あにきのようなこころもち) de Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 22 007 caractères · 56 écrans

Aozora Bunko

物質的に困っている人たちには、殊に同情が篤いようである。それはいくらも実例のあることだが公けにすべき事ではないから、こゝに挙げることは差し控える。それから、僕自身に関したことでいうと、仕事の上のことで、随分今迄に菊池に慰められたり、励まされたりしたことが多い。いや、口に出してそう言われるよりも、菊池のデリケートな思いやりを無言のうちに感じて、気強く思ったことが度々ある、だから、為事の上では勿論、実生活の問題でも度々菊池に相談したし、これからも相談しようと思っている。たゞ一つ、情事に関する相談だけは持込もうと思っていない。

それから、頭脳のいゝことも、高等学校時代から僕等の仲間では評判である。語学なぞもよく出来るが、それは結局菊池の分析的の頭脳のよさの一つの現われに過ぎないのだと思う。所謂理智の逞ましさにかけては、文壇でも菊池の向うを張れる人は、数えるほどもないに違いない。何時か雨の降る日に、菊池と外を歩いていたことがある。僕はその時、ぬかるみに電車の影が映ったり、雨にぬれた洋傘が光ったりするのに感服していたが、菊池は軒先の看板や標札を覗いては、苗字の読み方や、珍らしい職業の名なぞに注意ばかりしていた。