Classiques japonais avec furigana
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てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Lisez 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 38 941 caractères · 79 écrans
この時香具師はソロソロと北面の狭間へ寄って行った。音を盗んだ擦足であった。閉ざされた狭間戸へ手を掛けた。一寸二寸と引き開けた。
お半の方は佇んでいた。右手を懐中へ差し入れた。何かしっかり握ったらしい。眼は宗春を見詰めていた。頸の一所を見詰めていた。足音を盗みジリジリと、宗春の背後へ近寄った。と懐中から柄頭が覗いた。それは懐剣の柄頭であった。
香具師は狭間戸を二尺ほど開けた。
と体を飜えしポンと閣外へ飛び出した。閣外から狭間戸が閉ざされた。
宗春もお半も気が付かなかった。
宗春は城下を見下ろしていた。
お半の方は忍び寄った。スルリと懐剣を引き抜いた。それをソロソロと振り冠った。ピッタリと宗春へ寄り添った。
「お半」
と其時宗春が云った。悩ましいような声であった。
「俺の身に、いかなる変事があろうとも、お前だけは俺を見棄てまいな」
お半の方は一歩退った。ダラリと右の手を下へ垂れた。
尚城下を見下ろし乍ら、宗春は悩ましく云い続けた。
「お前と、眠剤とこれさえ有ったら、俺は他には何んにも不用ない」
お半の方は懐剣を落とした。床に中たって音を立てた。
はじめて宗春は振返った。