Classiques japonais avec furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lisez 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 902 caractères · 22 écrans
四
四
それからの仕事は、奇蹟的に進捗しました。モデル台の上に立った多与里は、最早以前の美しい泥人形の小娘ではなく、左京の操る巧な恋の技巧に躍らされて、燃えさかる青春の象徴であり、申分のない八百屋お七的な激情の女性だったのです。
鑿は勢いよく動き出しました。しかもその一彫一刻が、有機的な繋りを保って、一塊の焔のように、流動的な形にまで燃え盛るのでした。
四月には磨きも済んで、端午の節句の頃にはもう彩色にかかっておりました。
わざと毛描きや、丹念な塗りは止して、ザット刷いた淡彩が、その匂うばかりの繋の跡を活かして、檜に刻んだ八百屋お七が、その儘櫓の上に駈け登りそうです。
その間にも六郷左京と多与里の恋の遊戯は、日とともに濃度を加え、最早抜き差しならぬ心境にまで押し上げましたが、その時丁度、彫像八百屋お七は出来上っていたのです。
作品は早速殿――石川日向守の御前に運ばれました。
五月の爽かなある夜、百目蝋燭を幾つとなく連ねた燭台の林の中に据えて、上へ被せた白い布を取った時、
「フーム」
石川日向守はさすがに唸りました。
それはまさに、一塊の美しい焔でした。