Classiques japonais avec furigana
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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
Lisez 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 83 234 caractères · 160 écrans
その六
………実際、左大臣のような人なら他にいくらでも美しい妻を求めることが出来るけれども、自分があの人を逸してしまったら、二度と再びこんな所へ誰が来てくれよう。それを考えたら、自分こそ最もあの人を必要としたのだ。自分は死んでもあの人を手放すべきではなかったのだ。………昨夜は一時の興奮に駆られて、孤独なんか恐くはないような気がしたけれども、今朝覚めてからの数時間でさえこんなに辛いのに、此れからずっと此の淋しさがつゞくとしたら、何として堪えて行けるであろう。………国経はそう思った途端に、涙がぽろ/\とこぼれて来た。老いれば小児に復ると云うが、八十翁の大納言は、子供が母を呼ぶように大きな声で泣き喚きたかった。
その六
妻を奪われた国経が、恋慕と絶望に苛まれつゝその後なお三年半の歳月を生きた間のことは、後段滋幹のくだりに於いてやゝ詳細に触れる折があろう。今は暫く筆を転じて、あの夜あの車の中へ「物をこそ」の歌を投げ入れた平中の方へ叙述を移そう。
平中も亦、国経ほどではなかったにしても、やゝそれに似た、或る後味のほろ苦いものを嘗めさせられたのであった。もと/\此の事の起りは、去年の冬の或る夜、彼が本院の館に伺候した折、左大臣からあの北の方のことをいろ/\尋ねられたので、ついうっかりと、好い気になっておしゃべりをしたのが始まりで