Classiques japonais avec furigana
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「しなゆうき」
支那游記
Lisez 支那游記 (「しなゆうき」) de Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 51 859 caractères · 105 écrans
上海游記
一 海上
一 海上
愈東京を発つと云う日に、長野草風氏が話しに来た。聞けば長野氏も半月程後には、支那旅行に出かける心算だそうである。その時長野氏は深切にも船酔いの妙薬を教えてくれた。が、門司から船に乗れば、二昼夜経つか経たない内に、すぐもう上海へ着いてしまう。高が二昼夜ばかりの航海に、船酔いの薬なぞを携帯するようじゃ、長野氏の臆病も知るべしである。――こう思った私は、三月二十一日の午後、筑後丸の舷梯に登る時にも、雨風に浪立った港内を見ながら、再びわが長野草風画伯の海に怯なる事を気の毒に思った。
処が故人を軽蔑した罰には、船が玄海にかかると同時に、見る見る海が荒れ初めた。同じ船室に当った馬杉君と、上甲板の籐椅子に腰をかけていると、舷側にぶつかる浪の水沫が、時々頭の上へも降りかかって来る。海は勿論まっ白になって、底が轟々煮え返っている。その向うに何処かの島の影が、ぼんやり浮んで来たと思ったら、それは九州の本土だった。が、船に慣れている馬杉君は、巻煙草の煙を吐き出しながら、一向弱ったらしい気色も見せない。私は外套の襟を立てて、ポケットへ両手を突っこんで、時々仁丹を口に含んで、――要するに長野草風氏が船酔いの薬を用意したのは、賢明な処置だと感服していた。