Classiques japonais avec furigana
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いんじゅうトリステサ
橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇
橘 外男
Lisez 橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇 (いんじゅうトリステサ) de 橘 外男 (たちばなそとお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 154 788 caractères · 299 écrans
六
阿弗利加の奥地で見つけ出したブルヴェンの口紅は、なんとも言えず昔懐かしい気がする。いつかグラスゴーへ旅行した時、陋巷に窮死する老女優が、昔自分の使った口紅を毒々しく唇に塗りながら臨終を遂げる芝居を見たことがあったが、今の私もなんだかそれと一抹似た境涯にあるような気がして、思わず苦笑する。でもかまわない、この口紅のある限り、父様に目立たぬように毎日少しずつ付けていよう。これだけが、今の私の身についた欧州だもの。
六
二月八日。父様のお部屋で大きな呶鳴り声が聞える。一人は父様のお声、もう一人はアランの声だ。また何かこないだのような下らぬことを持ち出して、父様に叱られているのだなと思ったが、別段に、私に関係したことでもないから知らん顔をしていることにする。が、声はいよいよ尖ってくる。そして論争のうちに、
「お嬢様、ちょっといらしていただきたいと旦那様がお呼びになっていらっしゃいます……」
とイスカーキが呼びに来た。
「無茶です。たとえ先生のなさることでも、まるでもう狂気の沙汰です。僕は絶対不賛成です」
「要らざるお切匙だ! 儂が娘に言いつけることに君は何の権利があって嘴をいれる! 黙って見ておればそれでよろしい」