Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(一) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 246 214 caractères · 495 écrans
ところが、その後もよく召される伊吹ノ館で、或る夜、藤夜叉は、道誉の寝所から逃げ出した。彼の伽を拒んで、夜中、独りで村へ逃げ帰ったのである。以後、彼女だけは、お城田楽には、病といって、出なかった。
だから、こんどの鎌倉下りには、べつな不安もあったのだが、和子の父高氏を尋ねるにはと、一座へ加わって来たのであった。夢は夢でなく、ある日、高氏の姿を辻で見た。
明日は。今日は。
と次の機会を待った。しかし男からは、文使いもない。彼女は毎日のように、足利屋敷のある大蔵の辺を、朝夕にうろついていた。――奇怪な女と、あやしまれたのもむりはない。
だが、幸か不幸か、彼女を捕えた屋敷の武士は、以前一度、彼女も伊吹で会っている一色右馬介だったのである。
「や。伊吹ノ館で見た、あの折の、田楽女ではないか」
彼女を引っ捕えてみたとたんには、右馬介も、単にこう、意外を感じたのみだった。
が。ふた言三言、藤夜叉が口走りつづける訴えを聞くと、彼は、愕然と色をなした。
深いわけを訊くにも、大蔵の屋敷付近は、適当な場所でないと、とっさに考え、
「藤どの。こう来い」
彼女を拉して、足早に、人通りもない大臣山のすそ辺りまで連れて来て、