Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans
すでにその頃、尊氏は瀬田大橋もこえ、彼の東下の軍勢は、野分の爪あとのひどい稲田を途中に見つつ近江路を急いでいた。
「えらい風」
と、尊氏はつぶやいた。
従う三千余騎もみな風の中である。歩兵はヨレヨレに縒れてあるいた。
「吉良。追い風だな」
「は。西風で」
「舟にも似て、風を負って行くゆえ、駒も軽い」
「得手に帆とやら、お門出は上々吉です。が、野分のあとを見てくると、東へ行くほど、荒れがひどいようですが」
「途中、崖なだれや出水のさまたげに会うかもしれん。……しかし従う面々がこの意気なら何ほどのことでもない」
尊氏が「意気」と言ったには、ふくみが聞える。
吉良貞義は、ふと他の面々を見まわした。
高ノ師直、桃井直常、一色右馬介、引田妙源らはべつとし――自分をはじめ、仁木、畠山、斯波、石堂、荒川などの一族輩はみな例外なしに、尊氏が弟直義を案じる思いと変わらぬものを胸に持っていた。
なぜならば、その誰もが、兄や弟や、我が子らを、東国の空においていたからで、
生きているやら?
はや死者のかずか
と、口にこそ出さないが、急へ赴く悲壮ないろが、しぜん、たれの眉にもあったのだ。