Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(七) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 330 262 caractères · 662 écrans
尊氏は、じっと、見すえた。男にもこれほどの者は少ない。女である。しかも小娘だ。時代の風雲が作った荒磯の奇形な姫小松の一つともいうべきだろうか。
尊氏は、ふと、からかい気味に、
「だから、どうなのだ?」
と、反問すると、棗は、血ぶくろを切られたようにばッと答えた。
「あなたを殺してやりたいと思ったのです!」
「なんで」
「あなたは強い」
「それだけか」
「それだけではありません。あなたは悪人だ。先には、ご恩顧ある北条家を裏切り、今また、朝臣の身で朝敵に立っている」
「はははは」
尊氏は笑った。だが、どこか空虚をおおいえない笑いでもあった。
ふと。朝早い寒雀のさえずりが耳につく。
尊氏は三名をそこへおいたまま黙って廊へ出て行った。まもなくまた、ここへ戻ってきた彼は、衣服もかえ、洗顔や髪の手入れもすましていた。そして、
「介。……袈裟を」
と求め、その袈裟を掛け、手に数珠を持ってから、介と頼春へ、こういいつけた。
「棗の処置は、そちたち二人へ預けておこう。あわれな者だ。酷くはするな」
「はっ」
しかし、二人は当惑顔を見あわせた。小娘とはいえ尋常な不敵さではない。もし逃げでもしたらどうしようかという惧れである。