Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(五) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 252 330 caractères · 505 écrans
天狗、天狗車
人の世の人を嫌つて
天狗が廻す
此世車
修羅を行く輪は業の焔
乗るは大天狗
引くは木ツ葉天狗
押すは何天狗
人の心の谷に棲む諸天狗
みにくい外道
美しい夜叉
この鎌倉にも百八の谷あり
然るがゆゑ、谷の上に
鎌倉の一法師高時
誓願の輪奐をきづき
七宝の精舎を建て
此世車には
人を乗せ人に引かしめ
春は春をたのしみ
秋は秋を……
「いや、だめだった。わしは暗君。わしの願望などは、たわけた痴人の夢だったぞ。わはははは」
高時はここで、息も疲れたのか、また薙刀の柄を肩へ立てて杖としながら、
「世の中、謡のようには参らん。さような訓えにはなったことか。さらば高時もあまんじて地獄に落ち、世の畜生道を、しばし泉下から見物するか。……」
と、笑ったが、そのとき、どこか遠くの方で、天狗の声でもない、人間の吠えでもない、いんいんと、赤い夜空にこもるようなものを聞いて、彼は俄に、ぶるッと、身ぶるいして、こう叫んだ。
「あっ、うかと、忘れていたわ! 新右衛門」
「え? 何事を」
「畜生たちをだ。あわれ、ほんとの畜生たちをつい忘れておった。この有様では、鳥合ヶ原の犬小屋も火の雨をまぬがれえまい。かしこの犬小屋には、高時を慰めてくれた高時の愛犬何百匹が、檻をも出られず、餌のくれてもなく、哭き悲しんでいることだろう。